1、尖閣諸島とアメリカ
もし尖閣諸島に中国海軍が進出してきた場合、アメリカはどういう対応をするのでしょうか?日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安全保障条約)の第5条にはこうあります。「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と。尖閣は日本の施政下にあるので、もしも尖閣諸島に中国海軍が侵入してきた際には米軍が出てくることになる...と思いきや実はそうではないのです。実は日米間の合意として「島嶼部への侵攻への対応は日本独自が対応する」ことが想定されているのです。つまり尖閣に中国が侵攻してきた時点で対応するのは自衛隊なのです。そして、もしもここで守り通せなければ管轄は中国に移るため、日米安保の対象ではなくなってしまうのです。(2012.孫崎)
それにしてもよく出来たお話しだと思いません?まるでこうなることを想定して戦後の工作を誰かが長い時間をかけてしてきたような印象さえ受けます。(そして本当にその可能性があるから笑えないのです...。)
2、日中を不幸にする強硬論
前にも言ったような気がしますが今や日本と中国は互いに欠かすことのできない貿易対象国なのです。つまりお互いにとってお得意先なんです。その両国が戦争をする...というのがそもそもナンセンスな話であるという点を先ず理解しないと、ことの本質は分からなくなってしまいます。でもこの2つの国が戦争してくれると助かる国がひとつだけあります。そう、アメリカです。なぜなら一つには武器が売れるからであり、もう一つには大国になりつつある中国の力を削ぐことができるからです。
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もし日中で軍事衝突が起こったとき、アメリカが恐らく取るであろう施策はいわゆる「オフショア・バランシング」といったものであると考えられます。これはかつて‘英米が日本の手を以てロシアの頭を叩かせた(石橋湛山の日露戦争評)’のと同じようなものだと考えてもらえればいいかと思います。つまり、ある国が敵対する国の国力を削ぐために第三国を‘支援’してその敵対国と戦争をやらせようという思惑です。日露戦争は一定の意味合いではたしかに「防衛戦争」と言えますが、実態は先述のようなものだったのです。現に日露戦争によって日本は遼東半島での権益や朝鮮半島での優越権を獲得しましたが、経済的にはただただ支出を招いたのみで、その後の景気悪化の一因にもなりました。(内情だけ見れば「痛み分け」だったということです...。)
・日露戦争の風刺画(ビゴー作)
しかも...です。日露戦争の時は明石源太郎などによる工作活動(ロシアにおける反政府勢力の支援など)に代表されるようないわゆる‘根回し’が比較的しっかりとされていました。しかし今はどうでしょう?断言しますが、根回しのできない戦争に日本は勝てません。よしんば今から何かを仕掛けようとしても現在日本には諜報機関すらありませんので、事実上不可能です。また、日露戦争当時、我が国は兵器開発においても独自の技術を多数持っており、それらが緒戦の勝利につながったことは言うまでもありません。ところが今日本は独自の兵器開発を殆ど半世紀していないも同然であり、アメリカの圧力もあるのでこれもまた現時点では事実上不可能ということになってしまいます。
じゃあそのアメリカから武器を買えよ...という方もいるかもしれませんが、それとて限界があります。もし補給路を絶たれるようなことがあればそこでゲームオーバー。コンティニュー画面はありません。しかも先述したとおり、もし一度尖閣が中国の掌中に入れば、そこは日米安保条約の対象にはならないのです。つまり、戦争をしても失う一方なのです。
3、今こそ石橋湛山に帰れ
先の連載の中盤で、石橋湛山のお話をしたのを覚えている方はいるでしょうか?彼はワシントン会議直前の1921年に「一切を捨つるの覚悟」という社説を書きました。植民地の一切の放棄を謳った彼の論説は大きな議論を呼ぶこととなりました。湛山は「植民地一切放棄」というウルトラCとも言うべき施策により、植民地経営にかかる経費を国内の発展のために使えるようにするとともに、政策のインパクトによる日本の国際社会での発言力の高まりを狙ったのです。
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僕は尖閣の領有権については一旦棚上げした上で、資源の日中共同管理および開発を進めることを主張したいのです。実のところ中国が欲しているのはそれであって島そのものではないのですから...。尖閣はたしかに日本固有の領土であり、中国の主張も一理あるとは言え、それは中国の領有権を確固たるものにするほどの根拠を持ったものではありません。それを踏まえた上でなぜさながら売国奴のような発言をするのかというと、「共同開発」というカードは日本にとってまず有益であるとともに中国の顔を一定立たせることができ、しかも日中戦争を誘発したいアメリカの思惑をひとまず叩き潰すことができるからです。
どの道このまま中国との関係を悪化させたところで資源の開発になど漕ぎ着けず、しかも両国の間で戦争が起こる可能性すらあるのですから、ここは日本が大人になってもいいのではないでしょうか?間違ってはいけないのが、ここで主張しているのが「尖閣の共同管理」ではなく「尖閣の資源の共同開発」だという点。領有権については事実上‘棚上げ’にする...というのが鉄則です。
そして今、日中の両政府がするべきなのは国民を落ち着かせることだということを、ここで主張しておきたいと思います。これは大東亜戦争の連載とも被るところなのですが、一旦世論が戦争へと傾いてしまうと、取り返しのつかないことになりかねないのです。やみくもに国交衝突を煽るような政治家は日中ともに信用してはいけません。そういう人間の背後にはきっと「ダビデの星」が見え隠れしていることでしょう。
ー参考文献ー
孫崎亨「尖閣問題 日本の誤解」(「世界」2012年11月号)
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