2015年10月6日火曜日

神戸新聞社、あーあ



先日の会合でついにTPPが大筋合意に至ったようであり、こぞってメディアはこれを好意的に伝えています。それは比較的まともだったはずの我らが(?)神戸新聞でも同様のようであり、ちょっとガッカリしています。

・TPP大筋合意/負の部分も十分に説明を
http://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201510/0008459521.shtml


2013年上旬の社説ではISD条項にも言及していたりと、数ある地方紙の中でもTPPについて鋭い言及を繰り返していた神戸新聞でしたが、今となってはこのテイタラク。これでは毎年僕が落とされるのも仕方がないのかもしれません...。まぁそれは置いておくとして、ひとまず先述の社説を見てみましょう。まず前半部~中盤。

TPPは、物品の関税を原則撤廃する貿易の自由化だけにとどまらない。投資や知的財産などのルールの統一、労働者や環境の保護規定など幅広い分野の包括協定となる。発効すれば、経済規模で世界の4割を占め、欧州連合(EU)をしのぐ一大経済圏が形成される。人口減少で市場が縮小傾向にある日本経済にとっては、成長が見込めるアジアなど海外市場への輸出や投資拡大に期待がかかる。陶磁器や繊維製品の関税引き下げも含まれ、地場産業や中小企業にも輸出の可能性が広がる。価格の安い輸入品の増加は、国内の消費者のメリットにもつながるだろう。

「経済規模で世界の4割」なんて仰々しく言ってますが、これがまず欺瞞なのです。そりゃ経済大国が2つも入ってるんですからそうなるでしょうよって話ですからね。実際GDPで見ると、ほぼ日本とアメリカの二国間協定とすら言えるレベルなんですよ。「成長が見込めるアジアなどの...」というのもまやかしに他なりません。BRICsのうち、一国でも中に入っていますか?いいえ、1つも入っていません。Vistaで見ればベトナムが入ってますし、あとインドネシアも入るんじゃないかとは言われてますが、ここはまだ流動的ですからね。とかく日本に対して大した恩恵はなく、市場の拡大という効果もあまり見込めないだろうというのが僕の分析です。次に後半部を見てみたいと思います。

国会はコメや乳製品、牛・豚肉など農産物5項目を「聖域」として関税撤廃の例外とするよう決議した。だが、安倍政権は工業製品の輸出増のメリットが大きいとし、成長戦略の目玉として積極的に進めた。

・そもそもはTPPの交渉参加に反対していた自民党

政府は、日本の農産物の輸出を増やすなど競争力のある強い農業にするというが、道筋が見えない。具体策を示し、実行する責任がある。(中略)参加国は今後、国内での承認を経て協定を締結する。日本も国会での承認が必要だが、政府はあまり交渉内容を明らかにしてこなかった。国民生活に関わる問題だけに「負の部分」も含めて十分に説明し、国民の理解を得なければならない。

政府は「農作物よりも工業製品」という判断を下したとのことですが、その論拠が今ひとつ曖昧な点に対しての批判をまずはするべきでしょう。そして何より許せないのは、まだ大筋合意というだけで締結もしていないのに、まるで締結が既定路線のような書き方をしているところです。アメリカだった次期大統領候補の多くがTPPに反対していますし、どうやらもうじきに大統領選を迎えるカナダでも野党はTPP反対なのだとか。このように実際にはまだまだ流動的なんですよ。それをもう決まりきったことのように報道しているのが許せないのです。では他の新聞はどうだったのかというと、とりあえず京都新聞は神戸に似たり寄ったりの内容。まぁ最後の一文に

とりわけ国会の責任は重い。真に国民の利益にかなう内容なのか、見極める必要がある。

と加えていて、暗に「まだ締結していないぞ」ということを暗に伝えている点は評価しますが、結局農業問題ありきで非関税障壁の部分(ISD条項など)に触れていないのは大きくマイナスです。「国会承認は許されない」とタイトルから銘打ったのは琉球新報

民主党政権下で自民党は交渉参加に反対していた。2012年衆院選で「『聖域なき関税撤廃』を前提にする限り」の条件付き反対に変わり、政権復帰後は交渉参加に前のめりとなった。変遷したのは、首相が日米同盟強化を第一に考えた結果だろう。TPPへの参加は米国が求めていた。安保法制同様に米国追従の表れである。国内農業と消費者をその犠牲にすることは許されるものではない。

といった具合に対米従属の1つの表れとして今回のTPP大筋合意を見ているのも評価すべき点でしょう。(まぁ他紙同様内容はほぼ農業で占められてますが...)TPPのブラックボックス性を批判したのは河北新報

もっとも、問題なのはその利益も不利益も「不確か」であることだ。それは参加国に守秘義務を課し密室で行われた、この交渉の特異さにある。断片的な報道はあっても、情報はほぼ伏せられてきた。広い分野を網羅する協定の影響は農業ばかりか、生活全般に及びかねない。政府は合意内容を速やかに開示し、どんな分野にどんな影響があるのか詳しく説明すべきだ。

農業は元より、多分野に渡って多大な影響をもたらすというTPPですが、にもかかわらず議員ですら全容にアクセスできないという異例の密室会議で交渉は進められてきました。一体どれだけの人が全容を把握できているのかは怪しいものですが、流れてくる情報を統合すると、やはりどうにも日本にとって有益であるようには考えられないのです。というか国家単位ではほとんど全ての国にとってマイナスなんじゃないでしょうか?TPPで恩恵を得るのはグローバル企業や富裕層のみ。それ以上でもそれ以下でもないのだと僕は分析しています。次に見てみるのは東京新聞。ここも比較的まともな論調で知られるところですね。注目すべきところは文章の丁度、中間地点。

TPP交渉には当初から国内に不安が広がり、反対の声が根強く続いた。農業や保険、医療など暮らしや命に直接関わる幅広い分野が自由化交渉の対象になり、利益至上主義の大波にさらされる危機を感じたからだ。自由な経済活動を放任すれば弱者は追い込まれ、経済格差は拡大して対立が深まる。TPPがそれを広げることがあってはならない。合意を受けた国会審議では、影響を受ける分野で弱者に対する目配りと対策が求められる。

一部ではそれが本丸なのではないかとも噂される保険や医療。個人的には金融も加えたいところですが、とかく農業のみならず命にかかわる幅広い分野が対象となりかねないことに言及しているのは評価していいでしょう。(まぁ合意ありきの書き方は頂けませんが...)また後半部ではTPPが経済のブロック化を進めるものとして批判しているのですが、個人的にはこれもちょっと待てよというところ。

TPPのもう一つの顔は経済のブロック化、保護主義への傾斜という危険な顔だ。 「地政学的」と言われる対立の広がりで、国際社会の様相は目に見えて悪化している。経済成長する東アジアで覇権争いを繰り広げる米国と中国は、先日の首脳会談で共同声明すら出すことができなかった。英国の経済紙は、TPPは台頭する中国に対抗して、米国がアジア太平洋で影響力を確保するのが狙いと指摘。米中の争いが強まれば相手を排除する経済のブロック化、保護主義に傾斜しかねない危険性があることを浮き彫りにした。

たしかその昔、TPPに関する連載で言及したと思うのですが、アメリカにしてみればTPPの狙いはアジアの分断にあるんですよ。とどのつまり、経済成長の著しいアジア市場に低迷している自国の商品を押し売りしようという狙いがあるワケですが、そうなってくると困るんですよね、たとえば東アジア共同体なんぞを作られちゃったりすると。だからそうした意味では安保法制もTPPも同じ根の問題なんですね。日本に安倍や前原がいるように、中国にもアメリカの息がかかった人がまだ少なからず居ます。韓国にも居るでしょうし、北朝鮮はアメリカの傀儡といっても語弊のない状況です。火種はあちらこちらにあるんですよ。それらに指示を出して、何とかアジア諸国が揉めるように仕向けているのがアメリカなんですよ。それを理解しないと何にもなりません。まぁこんなこと書ける新聞はないでしょうけどね...。

・結果を待たず 甘利大臣「TPP大筋合意」フライング会見の悪辣(日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/165039

それにしても甘利明は何しに行ったんでしょうね?各国が自国の国益を少しでも守ろうとしている中、ただただ譲歩だけをしていたような印象なのですが。全く呆れたものです。そしてこんな政権の存続を許している大多数のアホな国民にも心底ウンザリさせられます。白井聡さんじゃないですけど、もう一度悲劇を経験しなければ日本人は分からないのですかね?

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そうじゃないことを祈るとともに、事実の追求と拡散を進めていきたいと思う今日この頃です。あ、神戸新聞さん。僕の方にはまだ‘その気’はありますので、もし気が向いたら一度連絡下さいよ。きっと僕の力が必要になるときが来ますから...。そんなところでありますが、本日はこれにて失礼したいと思います,ジベリ!

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