2014年10月23日木曜日

自分の「痛み」が分かることと「人の痛み」が分かることでは微妙に意味が違う

意味深なタイトルになりましたが、何のことはない漫画の話を今日はします。いつぞやからか、ジャンプの話題といえば銀魂で久しく話題に上げていなかったONEPIECE。これが今ホントに面白いというか考えさせられる深い内容なんですよね。



と、その前にこの漫画がなぜ大人からも愛されるのかということについて、僕なりのまとめ方をしたいと思います。勿論1つには至極単純に、連載開始当時に子どもだった人たちが変わらず読み続けているということがあるのは間違いないでしょう。僕を含めた多くの読者は麦わらの一味として一緒にグランドラインを越え、あるときは仲間の過去に涙し、ともに闘い、そして長編の最後には皆で宴を楽しんできました。また白ひげは僕にとっても最高のオヤジでしたし、シャンクスはルフィのみならず読者である僕たちにとっても偉大な先輩であり続けるのです。



しかし、そうした単純な理由だけでONEPIECEが愛され続けるのかといえば、勿論そうではありません。大人になってからこそ分かるような複雑なテーマをこの作品は内包しているのです。というのもこの漫画って意外と社会風刺ネタが多いんですよね。そして正義と悪が流転するのも面白いところ。大きなテーマで見ると海軍は悪にすら感じるときも少なくはないのですが、その制約の中で正義を遂行しようとする人も勿論居て、やっぱりそういう局面では海軍は正義なんですよね。

で、現在の話。ハッキリ言って銀魂と違って大きな時間軸のある漫画なので、どこから読んでも分かるものではないのであり、そのためストーリーの説明も難しいのですが、簡単に言うと今回は登場する悪役の‘過去’が悲惨そのものなのです。今、主人公らが戦っているのはドレスローザという国を支配するドンキホーテ・ドフラミンゴ率いる海賊団。たとえばマリンフォード編で言っていた「正義は勝つって!?そりゃそうだろ。勝者だけが正義だ。」という台詞が象徴するように、リアリストとしての側面が目立ち、また空島編直前のベラミーの一件が象徴していたように、あまり部下に優しいイメージもないというのが印象で、正直あまり好きなキャラではありませんでした。



しかしストーリーが‘2年後’に移り、パンクハザード編で再登場したあたりから印象が変わり始めます。底知れない強さは勿論のこと、幹部からの根強い信頼が描かれはじめるのです。ゾロがその昔、ルフィの身代わりに命を張ったように、ドフラミンゴの最も重要な幹部の1人であるヴェルゴも清々しく死を選ぼうとし、それに対してドフラミンゴは労いの言葉を投げかけたのです。また作戦に失敗した部下を処断することもありませんでした。(思えばベラミーは作戦に失敗したのではなく、勝手に不要なケンカを売って負けただけの話でしたね...)そしてドレスローザで明かされるドフラミンゴの過去。この漫画には天竜人なる絶対的な権力者が登場するのですが、なんとドフラミンゴの出自はそこにあったのです。天竜人というのは簡単に説明すると、世界政府という統治機構を作った王族の末裔なのであり、この人たちに傷を付けようものなら海軍の大将が軍を率いてやってくるという決まりがあります。その権力を傘に好き放題しているのが天竜人というワケなのですが、そんな人たちですから多くの人に遺恨をもたれているのも事実。(ちなみに作中で天竜人に手を上げたことが明記されているキャラは今のところ麦わらの一味を除くとフィッシャー・タイガーという魚人の海賊のみ。)

ドフラミンゴの父親はその‘腐りきった’人々の中においてかなり異端な存在であったようであり、彼は天竜人と人間は違うものだと言うその他の天竜人らに対し、「私たちは元々人間だ」と言って天竜人の座を放棄。人間として暮らしていくことを誓うのでした。「奴隷を買いに行こう」というドフラミンゴに対し、「もうそんなことはしない」と説明する父親。このように、やっていることは大変立派なのですが、ドンキホーテ一家を待ち伏せていたのは、予想以上に辛い現実でした。




長年の禍根を持つ天竜人の出身。ただそれだけの理由で一家は徹底的な迫害を受けます。逃れていく中で母親は病死。残った3人は捕らえられて磔にされ、拷問を受けることとなります。迫害されてドフラミンゴ少年は初めて「空腹」を知ります。生まれて初めて「痛み」を知ります。この回のタイトルは「人間宣言」なのですが、痛みや苦しみを感じるのが「人間」であるとすれば、彼はそこで初めて人となったと言えるでしょう。しかしながら、タイトルにもあるように「痛い」と感じることと、「人の痛み」を分かることは微妙に意味が違います。自分が「痛い」と感じたからといって、それが即座に「相手も同じことをされると痛いんだろうな」と感じることには必ずしも繋がりえないからです。そこには一定の想像力が必要になりますし、何より他者への思いやりが大前提として不可欠となります。結果だけ言えば、ドフラミンゴ少年にはそれらがありませんでした。彼は自分を迫害する人々と天竜人の座を放棄した父親を大いに恨むこととなります。(そして「殺した」と本人は言ってますが、まだその描写はありません。)ですが、ドフラミンゴの父親もまた想像力が欠如している人物だったのも事実でしょう。だって天竜人がそれほどの蓄積した遺恨を持たれていることに気付けなかったのですから...。



そしてこの長編のもう1人の主人公とも言うべき人物が‘億越えルーキー’の1人であるトラファルガー・ロー。こちらも暗い過去を背負っています。彼の故郷は国の基幹産業の公害で病気が蔓延し、それを「伝染病」と流布された挙句に政府の手で大虐殺を受けた今は亡き国。その生き残りである彼もまたその公害の被害者であり、病は確実に体を蝕んでいました。「俺は長く生きられない、この憎い世界を壊したい」と望む少年をドフラミンゴは受け入れ、そして片腕として育てるとまで言っていました。



しかし、ドフラミンゴの弟であるロシナンテの‘接触’が事態を微妙に変えていきます。初登場シーンでは「子どもが嫌い」という理由でローをいきなり投げ飛ばすという暴挙に出たものの、その本意は「子どもを海賊にしたくない」一心からであり、また病に苦しむローを心から心配して海賊団を離脱。治療してくれる医者を求める旅に出ます。しかし相手にされるどころか迫害され、怒ったロシナンテは医者をボコボコにして病院を破壊。助けるどころかローを辛くしてしまっていることを悔い、一人涙を流すのでした。そしてそんなロシナンテの姿を見たローが慕い始める...というところまでが今週の内容。ストーリー上、ロシナンテはその後兄であるドフラミンゴに殺されることとなっているのですが、こんなにいいキャラが死んでしまうなんて・・・。ともあれ益々ONEPIECEから目が離せません。



あ、でも銀魂も今熱いんですよね。今回の長篇の主役は服部全蔵や猿飛あやめをはじめとする忍者なのですが、そこに絡んでくる真選組、万事屋、そして鬼兵隊&春雨...。沖田vs神威という熱すぎる対決を経て、「紅桜篇」以来、久方ぶりにぶつかろうとしている銀時と高杉、そして神楽と神威。まぁ我らが桂も出てきてませんし、天導衆など未回収の伏線も多数あるため、これが最終章になる可能性は皆無に等しいですが、久々に大きく展開しつつあるストーリーから目が離せません。

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