--------------
~プロローグ~
中書島酔いどれブルース
京阪電車の赤黄色の車体が閑散とした暗闇の中を突き進んでいく。2階席の前から3番目。一人の男が座っている。車窓にもたれかかり、もう片方の手で喜怒哀楽のおおよそどれでもないような表情で夕刊紙を眺め、小さなため息を零している。彼の名は副島正。おおよそ主人公の登場シーンではないだろうが、残念ながらこれがこの物語の主人公だ。というか俺だ。淀屋橋駅で買った発泡酒は京橋を迎える頃には空っ穴となり、夕刊紙のクロスワードは枚方を迎える前に字で埋められた。しかし淀を通過した今も明日のスケジュールは埋まっていない。「明日は休みか...」そんなことを呟きながら上の空になっていると、次の停車駅を知らせるアナウンスが車内に響いた。「次は中書島、中書島...」そう、この駅で降りるのだ。
・中書島駅ホーム
花街、そして繁華街としてかつてはあの祇園よりも栄えていたという中書島だが、それも今は昔。スナックや新手のガールズバーが並ぶ以外は、いかにもといった佇まいの古き良き酒場がひしめき合うのみだ。メインストリートのどんつきには黄色い看板の中華料理屋があり、その手前の路地に白石酒造という酒屋がある。別段あまり多くの人の知るところではないのだが、そこが週に1度だけ酒場営業をしていることを知る人は更に少ない。
「あぁ副島君、待ってたよ。いつものでいい?」
そんな威勢のいい声が俺を迎える。ここの店主とは長い付き合いになる。俺は「あぁ」と小さく答え、お決まりの席に座り込む。程なくしてサッポロラガーの中瓶が運ばれてくる。
「なんか今日は一段と疲れてるね。何かあった?」
「何もないからこの通りの冴えない面なんすよ。」
そんな他愛もない話をしながらコップに注いだほろ苦いアルコールをぐいっと飲み干した。ガキの頃は気を落としているときは大方何かがあった時だった。テストで悪い点を取ったとか、友達と喧嘩しただとか、好きな女が彼氏持ちと知ったとか...。しかし大人になれば何かがあって気を落とすことなんてそうそうありはしない。不も可もない味気のない日々に心底うんざりするものだ。変わらないことに気を落とし、そして今宵も酒の国に逃げるのである。
「副島君、遅れてすまんね。」
振り向くとかつての上司である中島さんの姿があった。
「今日も嫌なニュースがあった。君の言う‘最高の日’はいつになったら来るのかね...」
「僕はもう辞めた人間ですからね...。でもその日が来ることは今でも祈ってます。」
俺かかつて新聞記者だった。京都に根を張る地方紙、平安新聞の記者として4年と少々の月日を過ごした。いい記者だったかどうかは分からないが、それなりに名のある賞もスクープも幾つか取ったことはある。ではいい社員だったかというと・・・そうでもないのだろう。でなければ今も俺は記者をしていただろう。
「今でも思い出すよ。君が面接の時に言っていたこと...。」
この人の名は中島一喜。俺の恩師に当たる人だ。この人が居なければ俺は大学院に進学して豊富な教養を得る代わりに説明しようのない何かへの苛立ちを糧にチンピラにでもなっていたことだろう。まぁ今の自分を俯瞰的に見ればやはりチンピラ同然なのであり、結局は同じことなのかもしれないが。
「もう5年も前の話ですよ。懐かしいですね...。みんなは元気っすか?」
「あぁ元気だよ。私はやはり寂しいがね...。戻る気はないのか?」
「あれば辞めてませんよ。」
「済まないな...」
「中島さんに謝ることはあっても謝られる覚えはありませんよ。」
「君になくても私にはある。君が記者として、ジャーナリストとして大勝負に出ようとしていたとき...私は何もしてあげられなかったんだ。」
「仕方がないっすよ、あれは。それにあれは僕の喧嘩です。
子どもの喧嘩に親が出るなんてバカバカしいでしょ?」
「バカバカしいのは部下一人守れなんだひ弱な上司だよ、済まなんだな。」
この如何にもいい人オーラ全開の上司は、こうして顔を合わせる度に俺に謝るのだ。俺はあのとき会社に絶望したかもしれないが、この人に絶望などしていない。謝られて心苦しい俺のことも考えろと言いたかったがそれは無理なことだった。彼はそれを知っていたとしてもなお謝らなければ心苦しいと感じているのだろうから。
「ホントに景気の悪い2人だ。ほら、鯖寿司サービスするからちょっとは明るく。」
白石さんは笑いながら小皿に入った鯖寿司を差し出した。僕らはそれを頬張って飲み込むと顔を合わせて笑った。
「明日その日が来るなんてことは稀かもしれないけど、変化くらいはあるかもしれないよ。」
白石さんはお猪口に入った日本酒をチビッと飲むとそう言った。
「だと良いですね。そしてそれがいい変化であることを祈りますよ...。」
中島さんが続ける。そうだ、変化すればいいってもんじゃない。現状にうんざりしていたずらに変化を求める気持ちは理解できるが、実際はそんな単純じゃない。それが「いい変化」でないのならまだ変わらない方がマシなのだ。
「じゃあそれを祈って乾杯!」
そう言うと白石さんは日本酒の注がれたお猪口を2つ突き出した。
「まだ何もないっすけどね。」
そう言いながらも俺は差し出された盃を受け取った。
「笑う門には福来る、乾杯してりゃそれ相応のいいこともついてくるもんだよ。」
白石さんはそう返した。成程そうかもしれない。シケたツラで口説けるほど幸運の女神は甘くない。まぁそれで母性本能に訴えかける戦法を取るのなら別だが...。
「それもそうだな。副島君、明日は休みなんだろ?じゃあ今日は気にせず呑もう。」
中島さんはお猪口を手に取ると上機嫌にそう言った。
「そうっすね、じゃあ朝までコースで。」
そうだ、もうとことん呑もう。今日はそういう日なのだ。
「あ、じゃあ客も居ないし店閉めて一緒しよっかな?」
と、白石さんはにこやかに職務放棄を宣言。何のことはないいつものノリだ。
・中書島歓楽街
かくして3人して乾杯。そして勢いそのまま飲むこととなり2軒目、そして3軒目と呑みの旅路は明け方まで続いていった。ともあれ男にはこういうバカを教えるいい意味での悪い先輩が必要なものだ。幸せなことに俺はそうした先輩に2人も巡り会えた。それはすごく幸せなことなのかもしれない。
----------------------------
・おまけ(副島さんとSenichiさん)
Senichi「はい、という訳でプロローグ終わったけどどう?髪切った?」
副島「切ってねーよ、つうか告知から4ヶ月空けて連載スタートって何?バカなの死ぬの?」
Senichi「いやいろいろ忙しかったんだってばよ。」
副島「・・・まぁそれはいいとして何これ?カッコ悪っ!主人公としてあるまじき登場シーンだよね?」
Senichi「うるせー、ありのままを伝えただけだろーが。レリゴーした結果だよ。」
副島「寒すぎんだろ、エルサでも凍え死ぬわ!いいのこれ?何ホントに俺の日常伝えるだけ?大手筋大捜査線とか、観月橋を封鎖せよとかやらねーの?」
Senichi「やらねーよw お前は一生そこでベストガイでも観てろ。」
副島「観ねーよ。じゃあせめて副島正と鉄人兵団は?」
Senichi「・・・一番ねーよ、よく最後にそれぶち込んできたな。じゃあ最後に次回予告シクヨロ。」
副島「ということで次回の便利屋探偵副島正は
①副島正の宇宙開拓史
②副島正と恐竜
③作者、星になる
の豪華3本立て。はいジャ~ンケンp..」
Senichi「やらせねーよ!つうか俺殺したら連載終わるからね。もういい、俺がやる。ということで第1話は副島正、カンヌで大迷惑。絶対観てくれよな!」
副島「行かねーよ、つうかこれダブルボケって不味くね?」
Senichi「だから‘アイツ’が必要なんだろ?次回からちゃんと登場すっから。」
副島「おっとそうだった。ついでにヒロインも来週からだっけ?」
Senichi「だね、ってなワケで次回は第一話、『何てことない日常』(仮)。たぶん今月中には書きますんでそこんとこヨロシク!」
副島「なんか田代まさし並みに説得力ないんだけど・・・。」
--------------------------------
~あとがき~
もうストーリーは固まってるんで、もう流石に1ヶ月単位で間が空くことはないと思うのですが、僕も色々しなきゃいけないことが山積みでねw もうフリーでジャーナリストでもできれば一番いいのかもしれないんですけど、そんなに甘くはないですからね。まぁその辺ちょっと考えがあるのでそれはまたの機会に改めて...。そんなところですが、本日はこれにて失礼します,ジベリってことで。
0 件のコメント:
コメントを投稿