2015年6月21日日曜日

松葉騒動と大阪都構想は一体である

・岐路に立つ梅田(撮影は2013年9月)

結局は自主退去という形になったそうですが、件の松葉騒動の本質についてはあまり理解されていないように思います。なので今日はメディアの報じているものとは全く違う視点からこの騒動について考察してみたいと思います。


1、都構想とは何だったのか?
そこでまず考えるべきなのが、先月17日に行われた住民投票なのです。あれは現行の大阪市を廃止して新たに5つの特別区なる自治組織に再編することの是非を問うものでした。反対票が僅差で上回り、これはひとまず回避されて言い出しっ屁の橋下さんが今期限りでの政界引退を表明するという顛末になったのですが、まず1つ確認しておきたいのが、もしあの投票で賛成が上回ったとしても大阪都になるワケではなかったということです。そして藤井聡さんなどが主張するように、これによって大阪の財政が良くなる見込みもありませんでした。橋下徹という人間のサティスファクションを満たすこと以外に何も生み出さないものだったのです。

・賛成区と反対区(産経新聞より)

しかしながらマスコミの扇動などもあって市民にはセンセーショナルに捉えられることとなり、賛成票と反対票は拮抗。年齢層で見ると20~40代の比較的若い世代が今回賛成票を投じることになりました。また、地区別で見ると梅田や淀屋橋といった通称キタと呼ばれる地域で賛成が多く、昔ながらの下町の多く残るミナミほか周辺部では反対が上回るという結果に終わっています。



 これくらいの分析は他の人もやっていることかと思われるのですが、実はこれだけでは今回の結果を正しく分析しているとは言えません。だって若年層でも20代では41.2%が反対に投じていますし、たとえばミナミの代表格である浪速区(新世界や難波の一部もこの区に位置)や中央区は賛成が多数でした。神戸新聞さんは5月19日付の記事で賛北否南なんて書いてましたけど、これでも些か語弊があります。つまるところ、地域や年齢での分析はあまり意味を成さないということかもしれません。

・カジノ頼みの都構想(笑)

ただ強いて言えば湾岸部が揃って反対というのが個人的には面白く思います。府知事時代に肝入りで庁舎移転を進めていたコスモタワーのある住之江区を筆頭に湾岸部は全区で反対が多数ですよ。たしか湾岸部にはカジノ誘致の構想もあったようなのですが、一事が万事あまり住民からは歓迎されていなかったのかもしれません。(僕もカジノについてはパチ屋勢力の駆逐や国営化による財源確保という意味で過去には関心があったのですが、橋下さんはマルハンとベッタリですし、加えて本場のラスベガスでもカジノは斜陽産業になりつつあるとのことなので、今はどちらかというと反対的な立場です。)



 あと反対派は途中から「大阪市が無くなる」という市民の郷愁に訴えかける手法に切り替えましたよね。早い話、僕はそれこそが勝因だった気がするのです。逆に変化を求める傾向にある若者は橋下さんのやっている「なんとなく新しくて勇ましいもの」に惹かれたということでしょう。(勿論高齢者の強い反対の背景には敬老パスの有料化などの影響もあるでしょうが...)当然ながら大阪市を廃止したところで二重行政は解消されません。特別区と大阪府の間で二重行政が発生するのが関のヤマンボウです。また下の記事で保坂展人さんが主張するように、特別区の権限はあまり強いとは言えないものなので、地方分権の流れにも逆行するものなのです。

・保坂展人(世田谷区長)が指摘「都構想より『区』の権限強化を」(日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/160046

繰り返すようですが、仮に大阪市が解体されて特別区になったとしても何もプラスにはならないのです。ただ大阪市という自治体が地球上から無くなるのみです。自治体など統治機構というのは基本的に人為的なものには他なりませんが、時間が経てばそれは良くも悪くもアイデンティティの材料になり得ます。それを壊そうとしたのが橋下改革の総決算だったという実にくだらない話だったのです。特に考えもなく、なんとなくの変化を求めていた人たちも、そこに至って事の重大さに気付いたのかもしれません。
 


それからもう1点特筆すべきなのは、時間が経過するにつれて反対派が強くなっていった点です。それも「大阪市側のカネにモノを言わせた大掛かりなプロパガンダにも関わらず...ですからね。ともあれ、これは当然なのです。もともと中身のないものを議論しようとしているのですから時間とともにみんな気付いていきます。いわゆるB層も少しずつ覚醒に向かっていくのです。これは国政における安保法制と一緒ですね。だったら安保(或いは改憲)も国民投票にすればいいじゃないかという声もあると思いますが、そこについては僕はかなり慎重です。だって不正選挙があるんですもの。反対世論が一定強くなったところで国民投票をブチ上げて不正集計。僅差で賛成の勝利(という結果を恣意的に作り出す)...みたいなシナリオがある気がしてならないからです。


2、否定される「戦後」
話を松葉に移します。僕に言わせれば、そもそもあの場所がどういうところだったのか、それがまず理解されていないように思うのです。あの場所は大阪の戦後史を語る上で欠かせない場所だったのです。結論から言えば、あの周辺は先月の記事で出てきた十三や豊田屋でお馴染みの池袋北口がそうであるように、闇市をベースとして作り出された場所でした。

串カツ「松葉」騒動…戦後が消えても「大阪の思想」は残るのか(産経WEST)
http://www.sankei.com/west/news/150617/wst1506170053-n1.html

大阪駅前には昭和17(1942)年に完成した地下道があった。空襲で家を失った人々は、路上生活を余儀なくされ、雨をしのげる地下道をねぐらにする人も多かった。地下道を管理する大阪市は、治安対策と衛生面の改善のため、「道路占有許可」を与えて地下道に店舗や飲食店を誘致した。

橋下さんは「あの地域にしては破格の値での賃貸」なんて言ってましたが、そもそもあそこにはそういう歴史があったのです。阪神百貨店(および阪神電鉄)としてはあの場所を小奇麗にしたいのでしょうが、その過程でアイデンティティを喪失させていることには気付かないのでしょう。阪神電鉄があそこをどのように再開発するのかは知りませんが、その如何によっては僕は金輪際阪神百貨店を利用することはないでしょうね。

・神宮外苑にこんなものを作るのが保守なワケがない

しかしながら大阪のみならず、現在日本ではあらゆる意味で「戦後」の否定が行われているような気がします。安倍政権のやっていることは戦後レジームからの脱却に名を借りた戦前回帰ですし、建築物で言えば国立競技場の取り壊し&建て替えがそれに該当するでしょう。為政者はなぜそのようなことをするのか。それは戦後の‘遺物’が国民の底力によって作られたものであると知っているからではないでしょうか?だから意識下で忌まわしく思っているのでしょう。


3、橋下市政には大阪への愛がない
週刊アサヒ芸能に井筒和幸監督のコラムのコーナーがあるのですが、6.25特大号のそのコーナーで井筒さんは松葉についてこう語っています。

大阪のほんまの文化を知らない連中は「店に非がある」とか勝手を言うてるが、スタバで憩っているような連中に何がわかるんや。あの場所に再開発なんていらない。居座ってくれ。永久に営業してくれ。大阪の景色を守ってくれ!(本文ママ)

まぁ井筒さん自体が色々と問題のある人ではあるのですが、少なくとも大阪への愛着は感じますし、「あの場所に再開発なんていらない」というのは僕も賛成するところです。百歩譲って再開発するにしても、トイレをきれいにしてバリアフリー対策を取るくらいのことで十分なんですよ。梅田にはまだ新梅田食道街(1950年開業)など昭和の匂いのするところが多数ありますが、そうしたところがずっと残ってくれることを祈るばかりです。

・意外と(?)古いものも沢山ある梅田(お初天神はこの近くにある。)

個人的に好きなんですよね、梅田って。古いものと新しいものが雑多に並んでる感じが。ビルの谷間にさながらオアシスのように佇んでいる露天神社(お初天神)とその近辺のレトロな路地なんて感動モノですよ。橋下さんのやっていることには一事が万事、大阪への愛情が見えてきません。これは安倍政権もそうですね。そういう人たちに限って愛国とか保守とかって自称するのは何故でしょうね。一体あの人たちは何を守ろうとしているのでしょう...。松葉は撤退してしまいましたが、大阪市は残りました。二重行政の脱却も大切でしょうが、それ以上に今回の騒動を機に大阪の人たちが大阪という街と改めて向き合うようになってくれるといいなと思う次第です。僕は今日はこれから1泊2日の神戸旅行に出掛けるので、ボチボチ失礼したいと思います,ジベリ!

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