2015年2月15日日曜日

農協改革について

今日は先日、全国農業協同組合中央会(JA全中)が政府・与党案を受け入れを発表しました。これによって今後いわゆる農協改革が急ピッチで進められていくものと思われるのですが、これは一体どのような影響をもたらすのでしょうか?今日はそのことについて解説していきたいと思います。

1、概要
そもそも此度の農協改革とはいかなるものなのか?まずは先日12日の京都新聞さんの社説を読みつつそれを見ていきたいと思います。

・農協改革  農業再生の道筋を示せ(2月12日、京都新聞社説)
http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20150212_3.html

改革の柱は、全国の700近い地域農協を束ねるJA全中を農協法に基づく組織から一般社団法人に転換し、個々の農協への監査、指導権限を廃止することだ。監査・指導はJA全中の影響力の源泉であり、今後、下部組織への指導力が弱まり、政治的な影響力も低下するとみられる。

多分これだけ読んでも何のこっちゃわからない人が多数だと思うのですが、現段階で認識しておくべきなのは赤字にした部分です。とどのつまり、今回の農協改革の1つの狙いは、農協の政治的影響力(ないし発言力)を低下させることと考えて差し支えありません。要するに小泉首相のときの郵政民営化とやっていることは何ら変わりないのです。では何故今農協の力を削ぐ必要があるのかといえば、勿論1つにはTPPがあるのでしょう。TPP反対の急先鋒とも言える団体が農協、その影響力を少しでも削ぎ落して交渉を進めようというのが政府の魂胆であると考えられます。

・これがJA北海道の「TPP反対CM」である!(RKブログ)
http://richardkoshimizu.at.webry.info/201501/article_72.html

因みに今回の改革における骨子は次に挙げる3つだと言えます。1つにはJA全中の社団法人化、これは2019年の3月末までを目処に実施されるそうです。そして2つ目はJA全中が全国およそ700の地域農協に行ってきた監査・指導権の撤廃。で、3つ目はJA全中の監査部門の分離と、それに伴う新たな監査法人の設立ということになります。これは事実上のJA解体とも言うべきものなのですが、果たしてこれによって日本の農業はどうなるのでしょうか?安倍首相は「「JA全中こそが農家の自由競争の阻害要因だ」と言っているのですが、どうやら実態はそれとは異なるようです。2月13日の日刊ゲンダイの記事の中で鈴木宣弘教授はこう反論しています。「地域の農協は今の枠組みの中でも十分に創意工夫しているし、販売戦略も自由に立てている。農家がバラバラになれば買い叩きが助長されて大手スーパーが喜ぶだけと。前半部は正直ちょっと「うん?」と思うところもあるのですが、たしかに独自の取り組みで成果を上げている農協もあるようなので強ち間違いではないのでしょう。それよりも重要なのは後半なのです。そもそも中小規模の農家が大多数の日本。交渉力なんて皆無に等しいでしょう。稲作農家の時給は178円なんていつぞやか言ったことがあったような気がしたのですが、この改革によって農家の給与はもっと低くなってしまいます。



成程民主党が強く反対しないワケですよ。だって現在の党首はイオンの御曹司ですからね...。しかし、この「農協の自殺」とも言うべき改革案を、なぜJA全中はスンナリと受け入れたのでしょうか?ここについても先述のゲンダイの記事は言及しています。どうやらそれには理由があるようです。1つは自民党が准会員サービス制限の撤回を条件に出してきたこと。農協は現在461万人の正会員と536万人の准会員から構成されているのですが、そもそも自民党はこの准会員のサービス利用に制限(正会員の2分の1規定)を設けようとしていたようなのです。農協にしてみればそれは単純計算で268万人分の利益損失になるワケですから、成程大きな打撃です。しかしその代償としても、この改革案の受け入れはあまりに大きいと言えるでしょう。それを可能にしたのがもう1つの理由、とどのつまりそれは現在の安倍政権の強さだとゲンダイは言うのです。ISISの人質騒動であれだけ醜態をさらけ出したにもかかわらず、未だに政権は高い支持率を確保してますからね...。(まぁ僕に言わせれば、テレビや新聞の世論調査なんてのは大方インチキだと思うんですけどねw)


2、シナリオライター
しかしながら、そもそもこの「農協改革」なるものはどこから降って沸いた議論なのでしょう。安倍首相は「農業の成長戦略の一環」なんて言ってますが、勿論そんなものは建前でしかありません。2月15日の日刊ゲンダイがそれについて言及しています。

独禁法適用でトドメ 安倍政権が狙う「農協潰し」次の一手(日刊ゲンダイ)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/157216/1

埼玉大名誉教授で、経済学博士の鎌倉孝夫氏はこう言う。「『農協改革』は現場の農家が求めたものでもなく、農林族の国会議員の要望でもない。改革会議が発端であり、つまりは大資本の要望なのです。政策はそのためのもの。すべてはTPP(環太平洋経済連携協定)に向けた対応と言っていい。(独禁法の適用除外になれば)農協はバラバラになり、潰れる運命です」

そうなんです。有り体に言ってしまえば、農協改革は郵政民営化と同じく、アメリカおよびあの国を支配する大資本の意向で進められているものなのです。

・結局アメリカ言いなりの安倍政権(これは2月13日の日刊ゲンダイ)

要するに「成長のため」とか何とか言いながら、やっていることは大資本への奉仕に過ぎないのです。カネ持ちをより肥えさせるためだけに一貫して動いているのが安倍政権なんですね。(要するに、あらゆる意味で今話題のピケティの言ってることの真逆をやっているのが安倍政権だといっていいでしょうw)


3、「中間団体」の存在意義


「TPP亡国論」などでお馴染みのホサ官中野剛志さんがトクヴィルの言説を引用する形で中間団体の必要性について説いているのはよく知られた話ですが、白井聡さんも「永続敗戦論」の中でやや異なったアプローチで同様の主張をしています。どういうことかというと、白井さんはTPPに関する記述の中で非関税障壁の重要性について述べているんですが、これってまんま農協に当てはまるものだと思うんですね。



白井さん曰く、非関税障壁(ないしローカルルール)というのは各国の地理的要因や伝統的習慣、国民生活の安全への配慮という合理的な動機から定められているものなのですが、たとえば農協が黒い話の絶えない問題だらけのものであるのと同様に、それらが不合理な動機・要因も持ち合わせているのもまた事実。しかしながらこの2つを切り離すことはなかなか難しいのですね。


僕だって農協の閉鎖性や悪い意味での保守性、こうしたものは僕も正していくべきだと思っています。(そもそもモンサント社の遺伝子組み換え食品用除草剤を推奨するJAがTPP反対って言っても色々信用できないところは元々あったんですけどね・・・)ただ、それを差し引いたとしても今回の農協改革には賛同しかねます。なぜならこの改革では誰も救われないからです。先述の京都新聞の社説は次のように農協改革を批判しています。

問題は、この農協改革が肝心の農業再生にどう結びつくのかという点だ。安倍政権は、JA全中の影響力を弱めることで地域農協の自主性を高め、農業の競争力向上に結びつけるシナリオを描く。確かにJA全中の画一的な指導が、独自の販売先を開拓しようとする地域農協の取り組みなどを阻害してきた面があるのは事実だ。だが、組織を変えたからといって、即座に強い農業が育つわけではない。(中略)高齢化や耕作放棄地の拡大といった問題に対処するには、若い人が参入したくなる将来展望が不可欠だ。農協法改正案の国会審議では、農業再生の議論こそ深めてほしい。

これは実に切実な意見です。ただでさえ農家は後継者不足に悩まされているというのに、ここに来て更なる不安要素をつぎ込まれたのでは一層新規参入者は減ってしまいます。「この道しかない」という言葉が安倍首相は好きなようですが、「少なくともその道ではない」と、僕は強く否定したいと思います。また東京新聞はまた違った視点から農協改革を見ているようです。

農協改革 本当に農家のためか(2月11日、東京新聞社説)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015021102000151.html

今回の改革は、民主党政権の戸別所得補償制度になびいた全中への自民党の意趣返しではないかという、うがった見方もある。政府は今国会に農協法改正案を提出する。改革が農家のためになるのであれば、農業再生と所得倍増の具体的な道筋を国会で示し、生産者や消費者の理解を得るべきだ。

その発想はありませんでしたが、成程そういう面もあるのかもしれません。先日の佐賀県知事選の敗北が余計に自民を焦らせているのでしょう。しかし心配しなくても北海道知事選もきっと自民は負けます。というか今回の一件で地方の怒りの火にニトログリセリンを注いだのではないでしょうか?4月には統一地方選も控えてますし、益々面白いこと(?)になりそうです。そんなところですが、本日はこれにてお暇します,ジベリってことで。

0 件のコメント: