2014年5月6日火曜日

地方紙の逆襲②:論調の違いはどこから来るか? 

ということで連載の第2回。前回の記事では地方紙と全国紙の論調の違いが、その読者層ないし記者の生活水準から来ているのではないか?というところまで見てきたのですが、勿論この差異をそれだけの理由で説明するのは難しい話であり、つまるところ今回はそうではない理由として何があるのかというところを見ていきたいと思うのです。と、その前に他ブログで面白い記事を見つけたのでどうぞ一読ください。

・地方紙は解釈改憲に反対、批判が圧倒~憲法記念日の社説・論説(ニュースワーカー・2)
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20140504/1399213215

この記事にあるように地方紙は軒並み解釈改憲に反対ないし否定的であり、憲法記念日の前後でそれに関連する記事を載せているようです。中でも僕の印象に残ったのは東北地方のブロック紙である河北新報のものでした。

揺らぐ憲法/立憲主義の本旨、再認識を(5月3日河北新報社説)
http://www.kahoku.co.jp/editorial/20140503_01.html

中盤の圧倒的だった米国の力が陰り、中国の軍備増強や北朝鮮の挑発的な動きという時代・環境の変化を受けて、政府は日米の役割分担の必要性を強調する」 という認識自体については、そもそも北朝鮮=アメリカ、中国軍部≒アメリカであるという複雑な裏事情を踏まえられていない点で些か残念ではあるのですが、それでもその後の「安全保障における軍事の役割は一面にすぎず、外交力や人的・物的交流も重要。周辺国との緊張をさらに高めることのないよう説明を尽くす必要もある」という部分はごもっともだと思いますし、締めくくりの

仮に集団的自衛権の行使を認めるというのであれば、憲法の改正が筋だ。国民にその必要性を時間をかけて説き、正規の手続きにのっとり、審判を受ければいい。そのための改正国民投票法の今国会での成立が確実視されているではないか。

という部分は本当にその通りだと思いましたからね。ちなみに先述のブログ記事によると全国紙で解釈改憲に同調ないし賛同しているのは日経、産経、読売の3つで朝日と毎日は反対とのこと。保守革新以前の問題として立憲主義に真っ向から反する解釈改憲に賛同するとはどういう了見なんでしょうか。96条改正のときもそうなのですが、安倍政権のやろうとしていることにもう少し危機感を持って貰いたいと思う今日この頃であります。
----------(以下本題)------------------

1、農耕型と狩猟型
朝日新聞で論説や編集担当などを歴任した後、2005年に信濃毎日新聞の主筆となった中馬清福という人物が居るのですが、その人が地方紙と全国紙について興味深い分析をしているのです。彼は地方紙と全国紙をその仕事の違いから農耕型と狩猟型に分類します。つまるところ、暮らしの現場を職場とする地方紙の記者の仕事は農耕型であり、一方中央への取材をベースとする全国紙の記者の仕事は狩猟型であると言い表したのです。(※世界2013年6月号、藤田博司「新聞の立ち位置が問われている」より。なお初出は2010年の「ジャーナリズム」4月号とのこと)この分析は言い得て妙です。

全国紙の記者も現場には行きます。しかしその多くは一過性になりがちです。しかもベースとしているのが政府(政治家や官庁)からの情報であるために、ある種の色眼鏡を付けて物事を見ているきらいがあるのかもしれません。一方地方紙はと言うと、勿論東京や大阪に支局を置いているのが常であり、中枢と切り離された報道機関ではありえないのですが、大多数の記者は地方に根ざした取材をして記事を書いているため、読者である地元住民の問題意識や感覚を共有しがちなのです。

とはいえ地方紙も自治体や警察等とは全国紙のような馴れ合いの関係になりがちであり、それに起因して住民よりも行政の立場に立った記事を書いてしまうことはしばしばあるのだろうとは思いますが...。ただそれももしかしたら変化の傾向にあるのかもしれません。それを端的に示しているのが原発問題でしょう。従来であれば新聞に巨大広告を載せてくれる電力会社は言わばお得意さんであり、それゆえあまり厳しいことは書けなかった部分が多いように思います。実際僕も地元(愛媛県松山市)に居た頃は愛媛新聞をしばしば読んでいましたが、あまり原発に関する批判的な記事を書いているのを読んだ記憶はありません。昔の記事までは遡れないかもしれませんが、ちょっと参考までに最近の愛媛新聞を見てみましょう。(なんと丁度今日の社説が原発絡みではないですかw!)

・原発ゼロの夏 節電意識を高め乗り切りたい(2014年5月6日愛媛新聞社説)
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201405066681.html

今年が東日本大震災後初めての原発ゼロになる可能性が高まったことを受けて書かれた記事なのですが、果たしてどういったことが書いてあるのでしょうか?

2年前の夏、政府は計画停電回避を大義名分に大飯原発3、4号機を再稼働した。しかし、結果として再稼働がなくても電力は足りた。 記録的猛暑だった昨夏も、9社の最大需要日の実績は見通しを519万キロワット下回り、経済産業省電力需給検証小委は317万キロワットを節電分と評価した。大飯原発2基分の236万キロワットを上回る。国民の努力の成果にほかならない。 

これに対し、電力会社は努力不足と言わざるを得ない。再生可能エネルギー導入など電源多様化に後ろ向きだ。背景には政府方針がある。閣議決定されたエネルギー基本計画は原発再稼働を明記したばかりか、新増設にさえ含みを持たせた。これでは原発偏重は変わらない。電源多様化を促すためには、脱原発へ方向性を抜本転換すべきだ。 

なかなかいいこと書くじゃないですか。まぁ先日の伊方町の選挙に関しては社説での言及を避けてたりして、ちょっと煮え切らないところはあるのですが、成り行きとはいえ国民の努力によって省エネを実現していることに言及しているのは評価に値します。あと、この記事では書かれていないのですが火力発電所について、ちょっと誤解している人が多いようなので参考までにこちらのグラフをご覧下さい。



これは東京電力が昨年の9月末に発表したデータなのですが、ご覧の通り3年前(つまり原発稼動時)と比べて火力発電の発電量はほぼ横ばいなのです。(更にここで1つ情報を与えておくと、東日本大震災発生前の原発依存率って実はたったの30%なんですよね。)ではなぜ‘燃料が高騰’しているのか。答えは「円安」の2文字。つまり、あの異次元とも言うべき規模の量的緩和の所以として起こっている事象に過ぎないのです。(そもそも輸出依存度が10%程度で、輸入しなければいけないものが燃料・原料くらいという日本にとって、どうして円安が有利で円高が不利だと言えるのか。皆目見当もつきません。)そういたところまで言及があれば、もっといい記事だったのですが、ともあれ取っ掛りとしてはいいものだと思います。そしてもう一点残念なのが最後。

電力システム改革が急がれる。改正電気事業法が昨年11月に成立し、2020年を目標に発送電分離と電力自由化が段階的に進む。小売りが自由化されれば、総括原価方式は当然撤廃される。電力業界の激しい抵抗は必至だが、改革を後退させないよう着実な実行を強く求めたい。 

とあること。発送電分離や電力自由化は必ずしも脱原発とワンセットではないこと、そしてこれらが提言されたのが基本的には原発推進派のセクションである経済産業省の委員会であったことなどは昨年9月の記事で述べたとおりですが、未だにこの辺の議論を無視する人たちが多いことにやや辟易としています。ところ変わって次は川内原発を有する鹿児島の地方紙、南日本新聞の社説を見てみましょう。話の中心は自治体による初の原発差止め訴訟である大間原発訴訟について。

・[大間原発提訴] 周辺自治体の声を聴け(2014年4月5日南日本新聞社説)
http://373news.com/_column/syasetu.php?ym=201404&storyid=55948

ちなみに今回訴訟を起こした函館市は大間原発から海を挟んで最短で23キロという距離に位置しており、原発に「もしも」のことがあれば甚大な影響を受けることは必至です。訴訟が函館市に訴訟を起こす資格(原告適格)があるかが争点になりそうだとした上で、原発事故で安全神話は崩れた。司法は門前払いしてはならない。と司法の怠慢を牽制。鹿児島も同一の問題を抱えていることを示唆した上で記事はこう締めくくられています。

川内原発も事情は同じである。鹿児島県は再稼働判断前に、立地する薩摩川内市と隣のいちき串木野市で計3回、住民説明会を開く予定だが、UPZ(30キロ圏内の緊急防護措置区域内)の鹿児島市などからも同様の要望が出ている。周辺自治体の声に耳を傾けるべきである。

他県の事例を通して地元へ大きな問題提起を投げかける。なかなかいい記事だと思いますし、こうした記事を書けることこそが地方紙の‘強み’だと言えるでしょう。その地域に根ざして活動しているからこそ見えてくる視点・問題点。この先もしかしたら全国紙は軒並みその存在価値を失うかもしれませんが、地方紙は違うでしょう。しかし、そもそも全国紙は何故今のような有様になってしまったのか。それはそうしたメディアを取り巻く環境が大きく影響しているところでもあるのですが、その辺も含めて次回はこの連載の総論を書いていきたいと思います。そんなところですが、本日はこれにて失礼します,ジベリ!

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