2014年5月3日土曜日

地方紙の逆襲①:TPPから見る全国紙と地方紙の乖離  

ということでこないだ言ってた連載がいよいよスタートするワケですが、まぁタイトルにもある通り、とりあえずTPPについて見ていこうというのが今回の主題です。(あ、ちなみにTPPがどういうものかということについては3年ほど前に一度連載をやってるので、それを読んでください。)皆さんも何となくイメージはあると思うのですが、結論から言うと全国紙はTPP参加に肯定的で、一方地方紙はTPP参加に否定的というのが大まかなスタンスです。参考までにちょっと最近の記事を見てみましょう。


社説:日米TPP協議 早期合意の意欲失うな(4月26日、毎日新聞)

http://mainichi.jp/opinion/news/20140426k0000m070142000c.html


タイトルからもう嫌な予感しかしないのですが、本文にはこうあります。

日米はTPP交渉参加12カ国全体の国内総生産(GDP)の約8割を占める。両国が合意しなければ、交渉全体が失敗に終わるおそれがある。

まずここでツッコミどころが分かった人は、かなり優秀だと思います。そもそもTPPはあまり経済規模の大きくない国同士の経済協定だった筈なのです。ところがそこにアメリカが入ったことで協定の趣旨が大きく変わった。そういう経緯をこの著者は忘却しているようですw 


 TPPは経済成長が著しいアジア太平洋地域で、貿易・投資の幅広い分野を対象に高いレベルの自由化を目指す枠組みだ。透明で公平な経済のルールを共有することで、この地域で存在感を高める中国をけん制し、将来的にはこの枠組みに取り込んでいく狙いもある。経済の連携は安全保障面でも意義が大きいことを両国は再認識してほしい。
さすがにこれは何がおかしいか分かりますよね。TPPについて理解していれば、これがアジア経済を活性化させるものではなくむしろ分断するものであることは簡単に理解出来ますし、当のアメリカの意図がそこにあることもウィキリークスから明らかになってます。


これを忘れてはいないだろうか?

だいたい...ですよ。TPPには日本を除けばアジアの経済大国と呼べるような国は入っていません。中国も韓国もそうですし、インドも入ってません。(インドネシアも不参加ですし、マレーシアやベトナムでも依然、反対派が根強く残っています。)そうした状況を踏まえれば、TPPがアジア経済活性化に寄与しないことくらい、一目瞭然ではないですか。次に社名から嫌な予感しかしない読売新聞を見ましょう。
日米共同声明 TPP決着へ「大胆な」決断を(4月26日、読売新聞) http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140425-OYT1T50183.html
大胆な決断とははてさて何でしょう。日本の資産をアメリカに売り渡す決断でしょうか、はたまたアメリカの植民地になる決断でしょうか。何にせよ、碌なもんじゃないことだけは明白です。とりあえず本文を読んでみましょう。

難航する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の最終決着に向けて、日米首脳会談後に行われた異例の延長協議は、大きな前進があった。日米協議をテコに、豪州なども含めた12か国のTPP全体交渉の合意を目指さねばならない。

まぁ冒頭からこの調子であり、つまるところ読売新聞にとってTPP参加は既定路線であるようです。しかしそれにしても「大きな前進」って何でしょうね。どう見ても膠着状態で、その上日本は譲歩だけを迫られた格好。まるで大本営発表のようになってきました...。ではひとまず全国紙の話はここまでとして、地方紙を見ていきましょう。まずは上記2つと同日の琉球新報社説から...

・TPP日米協議 国益の譲渡は許されない(4月26日、琉球新報) http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-224334-storytopic-11.html
オバマ米大統領の離日直前に発表された日米共同声明は、「両国はTPP協定達成のために必要な大胆な措置をとる」「TPPに関する重要な課題について前進する道筋を特定した」とうたった。「前進」を懸命に印象付けようとしているが、大統領来日に合わせて実現しようとした合意が流れたのは紛れもない事実である。

まさに先程僕が言ったとおりのことが既に書かれているのですが、特筆すべきは後半です。

TPPは、農産物だけの問題ではない。「投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項」が盛り込まれれば、司法権も損なわれると指摘される。自国の決定権を失いかねない問題をはらむ。例えば米国の巨大バイオ企業の思惑により、日本に輸入した遺伝子組み換え食品は、そのように表示できなくなる可能性もある。医薬品の許認可や排ガス規制なども自主的に決められなくなる恐れもあるのだ。国民との約束や国会の意思はおろか、国家の主権すら譲り渡すような国益に反する合意を行うことは許されない。撤退を視野に入れ、毅然(きぜん)と交渉すべきだ。

実はISD条項に言及しているメディアって非常に少ないんですよ。それを隠して、さも農業(或いは畜産業)の問題に矮小化しようとしているのですがとんでもありません。TPPの本当の怖さはそこではないのです。実はあの東京新聞ですら、最近はそれを書かないんですよね。ちょっとその東京新聞を見てみましょうか。

・TPP交渉 やむを得ぬ関税の維持(4月25日東京新聞社説)           http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014042502000136.html

これは共同声明が出される前日の記事なのですが、本文にはこうあります。
経済のグローバル化が進む中、TPPなど自由貿易の推進は多くの国に新たな富をもたらす可能性がある。半面、それが必ずしも「安定」につながるとは限らない。グローバル化が「格差の拡大」というひずみを各国で生んでいる現実があるからだ。(中略) 大切なのは高い経済成長ではなく、少子高齢化に見合った緩やかで安定した成長と格差の是正、分配の是正、そして日本の農業の競争力の強化だ。
この記事で筆者はおそらくグローバル経済の功罪という側面からTPPを評しているのだと思います。それはもちろん重要な視点なのですが、残念な点はやはりTPPを第一次産業の問題に矮小化してしまっているところでしょう。では次に神戸新聞を見てみましょう。実は神戸新聞も昨年7月の社説ではISD条項に触れてたんですよね。
・TPP、国益を守る道筋を示せ(2013年7月17日、神戸新聞社説)         https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201307/0006166237.shtml
例えば、投資家と国家の紛争解決(ISDS)条項がある。法律や制度が整っていない途上国などで企業が不利益を受けたと訴えることができる仕組みだ。訴訟大国の米国が参加するTPPでは、日本各地の地産地消の取り組みや環境政策が企業活動に対する規制として訴訟対象にされる懸念がある。TPPには企業の権利が国の法律・制度に優先しかねないルールの協議が含まれる。
ただ残念なのは、後半の文でTPPのルールが今後の世界標準になる可能性は否定できない」というありえない推察をしている点ですね。それに100歩譲ってよしんばそうだとしても、それに抗う論戦を展開するくらいの意気込みがあって然るべきでしょうし、少なくとも僕はジャーナリズムとはそういうものだと考えています。



さて、ここまで見てきたように、そのスタンスに若干の違いこそあるものの、やはり全国紙→TPP推進、地方紙→TPP反対(ないし慎重)派という構図があることが見て取れると思います。一体なぜこのような事態になってしまったのでしょう。おそらく1つには読者層の違いがあるんじゃないかな?と思います。全国紙の主な読者層は大都市圏の企業労働者やいわゆる知識人層、エリート階級にある人たちだと思うのですが、一方で地方紙はというとその足場としているのは第一次産業が主流となっている地方の都府県です。ターゲットとなる読者層の違いが論調に反映されているというのは成程あるのかもしれません。
そして加えて言えば、全国紙の記者というのは思想の左右を問わずして基本的に収入の多い富裕層です。なのでたとえば消費税が数%上がろうが大して不利益を被らないのだと思います。一方の地方紙の記者というのは勿論安定した身分ではあるのですが、そこまで富裕層と言えるまでの高所得者でもありません。もしかしたらそのことも何かしらの影響を与えているのかもしれません。

しかしこれらだけではどうにも説明がつかないのです。他にも何か理由があるのではないか?その辺の考察を次回はしていきたいと思います。今日はもう1つ書きたい記事があるので、一旦ここで失礼します。

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